深田 上 免田 岡原 須恵

ヨケマン談義11.昔懐かしふるさとの味

11-36.山椒(さんしょう)の佃煮

 「山椒(さんしょう)の佃煮」とは、山椒(図1)の新芽を摘んで甘辛く、佃煮風にしたものである。名古屋あたりではあまり聞いたことも、食べたこともなく、食べられるのかと聞かれるくらいであるから、この味は、人吉や球磨人の好みであり、この地方独特の食べ物かも知れないが、縄文人も食べていた山菜である。筆者の家には、毎年、葉山椒の佃煮を兄嫁が送ってくれる。よって、ここで紹介する調理法はあさぎり町岡原地区での作り方である。

 山椒は、日本の北海道から屋久島までや朝鮮半島の南部に分布している。若葉は食材となり、雄株(おかぶ)と雌株(めかぶ)があり、実がなるのは雌株のみである。山椒は木の芽を代表し、古くから香辛料として使われており、木の芽は緑が鮮やかで香りが良いため、焼き物、煮物など料理の彩りとして添えられ、また吸い口(すいくち:汁物に香りを添えるために少量浮かべたもの)として用いられる。使う直前に手のひらに載せ、軽く数度叩いて葉の細胞を潰すと香りが増す。特に新芽の摘み取りは、タケノコシーズンであり、タケノコとの相性がいいこともあって、タケノコ料理には欠かせない。また、木の芽を味噌と和えた「木の芽味噌」は、木の芽田楽、木の芽和えや木の芽煮の材料となる。こういった和風高級料理の引き立て役としての用いられ方が一般的だが、そうではないのが「葉山椒の佃煮」(図2)である。

山椒 葉山椒の佃煮 新芽の炒め
図1.山椒 図2.葉山椒の佃煮 図3.葉新芽の炒め

葉山椒佃煮の作り方
 1)山から摘んできたサンショウの葉を棘に気を付けながら茎を除く。
 2)2~3センチ位に刻み、それを柔らかくなるまで炒める。
 3)炒め終ったら醤油・砂糖・みりんで好みの味付を確認しながら、煮汁が少なくなるまで
   煮込む。葉から水分が出てくるので加水は不要。焦げ付かいように水分を飛ばしながら
   煮込めば完成。
 4)煮詰まる頃は独特の匂いがするが、食べたら口の中がすっとする味だから不思議である。

 この他にも、地方によっては、山椒の葉を炒める(図3)のではなく、蒸す方法、茹でる方法、煮汁の中で煮込んでしまう方法などがある。
山椒は雄株(おかぶ)と雌株(めかぶ)があり、実がなるのは雌株である。これまで紹介した人吉球磨地方の佃煮は雌株の葉っぱの佃煮である。

 しかし、地方によっては実のほうの「実山椒の佃煮」(図4)が好まれるそうで、RAKUTENレシピの中にそれが紹介してあった。それによると、材料は実山椒と日本酒と醤油、味醂である。
 1)山椒の実の枝を根気よく取り除き、水を数回取り替えながら、一晩、水にさらしアク抜き
   をする。
 2)酒分量の半分の醤油と水気を除いた山椒の実を弱火にかけ、残りの醤油を数回に分けなが
   ら注ぎ、汁気がなくなるまで焦げないように煮詰める。
 3)冷めたら瓶などに入れ冷蔵庫で保管すれば一年ぐらいは大丈夫とのことである。

実山椒の佃煮 すりこぎ
図4.実山椒の佃煮(RAKUTENレシピ) 図5.山椒のすりこぎ>

 脱線するが、山椒(サンショウ)の話であれば「すりこぎ」(図5)のことを書かないわけにはいかない。図5は、さんち~工芸と探訪~から。から引用した。

 名古屋在住の楢木静代さんに「すりこぎは山椒の木で作っとばい!知らんじゃったと?私の実家では、一本はすりこぎ用で、二本の山椒の木が植えてあっと、、、」と教えてもらった。すりこぎが山椒の木で作られていることは知っていたが、なぜ山椒の木なのか、その訳を知らなかったのである。その訳を調べてみることにした。なぜ、すりこぎはなぜ山椒の木なのか。これまでの解説はこうである。
  ① 硬いから擦り減らない。
  ② 山椒の木はいい香りがするから、すり鉢で擦った場合、香りが料理に移って引き立つから。
  ③ 山椒の木の香りの成分は解毒作用もあるから。
  ④ 木肌が凸凹して持ちやすいから、などである。

 確かに硬ければ擦り減らない。でも、山椒の木より硬い木はいくらでもある。国産樹木であれば、アカガシやケヤキやツゲなどは非常に硬い。硬いと擦り減らず山椒の香りや成分が移入しないから、適度な硬さの山椒の木と言うのであれば理解できる。だから、① は理由にならない。② 山椒の葉や小枝は山椒の香りを発するが木部にはない。すりこぎが擦り減って山椒の香りが移入することはない。解毒作用や薬効がどれくらいあるのか、今のところ明らかではない。よって、②、③ の理由も信用できない。④ 木肌の凹凸は、好みにもよるが、和風の風情があることは事実である。結論的には、すりこぎは山椒の木で作るものというのは思い込みで、山椒の涼香や香木の印象を受け継いだものであろう。

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